『遠ざかる我が家』楽曲解説 B面前半

■『遠ざかる我が家』楽曲解説 B面前半■            構成/市川清師

 

7.甘い夜風に誘われて

これは実はTHE BARRIER GATESで一度、シングルで出している曲です。全然、アレンジは違っていて、もっとテンポが早く、ツービートでやっていて、忙しない曲だった。このバンドをやり出して、このバンドならニック・ロウみたいな感じにできそうだと思って、リズムを変え、キーも下げて、やってみたらいい感じのロックンロールになった。もう、ライブをやって楽しかったので、そのままアルバムに入れてしまおうということで、レコーディングしました。僕の中では新しいロックンロールです。

 

 

8.蜃気楼の彼方

これはみんな、びっくりすると思います。曲自体は5年くらい前からありましたけど、もともとはジャグ・バンドみたいに単純にジャガジャガやっている曲だった。ツービートで楽しいという感じでした。ライブをやるから、改めて詞を書こうと思って。詞を書いていたら、ただの旅行ですけど、10年前にエジプトへ行った時の光景がどんどん広がっていきました。サビが出来て、“未来は過去の中”――という言葉が出てきた。その言葉は非常に古い文化そのものを見ている感覚に近かったので、それでエジプトへ旅行に行ったことを思い出して、ものの、5分、10分で書き上げました。

旅行の思い出を並べていったら、イントロのフレーズも変えたくなってきて、まさに中近東っぽい、ちょっとアラブ音楽も入りつつという曲になりました。アラブっぽい音楽というのは自分の中で新鮮でした。西洋音楽とは真逆で、音階を含め、コードもないような展開だし、拍子も全然ぐちゃぐちゃです。僕の中では。ある意味、新しいものを感じていています。

これもライブでやると盛り上がります。楽しいですから。ただ、これをレコード化するのかという、疑問はずっとありましたけど、この際だから作ってしまおう、全部、吐き出してしまうと思って、すぐに作りました。

 

 

9.バルカン半島

何故、“バルカン半島”かというと、アルバムの最後は「夜間飛行」にしようと思っていて、この前に「蜃気楼の彼方」を入れたことで、「蜃気楼の彼方」から「Silky sky blue night」、「夜間飛行」へ行くと、どう考えても浮いてしまう。曲順を考えて、その間にデータベースからプログラミングまで、インストゥルメンタルの新曲を改めて作りました。ようするに「蜃気楼の彼方」から次に何が来るにしろ、アルバムの流れをいま少し落ち着かせないといけない、アルバムに納まりきれないという感じがありました。「蜃気楼の彼方」はエジプトの歌で、「Silky sky blue night」と「夜間飛行」はともに夜のイメージで、アダルティな感じです。別にサン=テグジュペリの『夜間飛行』に影響されたわけではないですけど、なんとなく、ヨーロッパっぽいイメージも自分の中にありました。何気なく地図を見たらエジプトからトルコ、ヨーロッパへ入るには、バルカン半島を通ります。曲を作るそもそものコンセプトがその“中間地点”のイメージだったので、つなぎの曲というか、今回はずっと動いている、旅をしている、そういう意味で言えば、旅をしていて通過する場所が丁度、バルカン半島だった。こじつけですけど、バルカン半島という響きもお洒落なので、タイトルにしました。曲自体もロックやジャズなどのフォーマットを外れて、ノンジャンル的なのものになりました。